<解答>
(1) 元金の取り扱い
契約の前提となる返済期日や返済金額、返済能力等には問題は存在しないと考えられます。そのため、これらの諸条件を明示した金銭消費貸借契約を作成することで、そのとおりに契約条件が履行されている限り、貸付金元本債権相当額の贈与はないと考えられます。
(2) 無利息である金利の取り扱い
新規開業時の医院用不動産の取得資金としての借入であり、その借入金額も1億2000万円と多額となっており、かつ借入期間も240ヶ月と相当長期間にわたることを考慮し、無利息貸付けに係る経済的な利益に対する課税を行わないとした場合については課税の公平性が保たれないものと考えられます。よって、父から子への利息相当額の贈与があったものと考えられます。
(3) 貸付金元本相当額の贈与があったものとされる場合
金銭消費貸借契約が成立している場合についても、その契約における具体的な返済に関する定め等がなく、借入金の返済能力がその借入者の所得等の状況からみて不合理な場合について、や「ある時払いの催促なし」といった状況にある場合については、実質的に贈与があったものとして、貸付をした者からその借入をした者に対する贈与があったものとして贈与税が課税されることになります。
(4) 留意点
したがって、親子間における金銭消費貸借契約に際しては、次のような点に注意しなければならないと考えられます。
(一) 月々の返済等、契約条件を履行していることを銀行振込み等により具体的に証明ができること。
(二) その契約において、返済期日や月々の返済金額及び利息に関する約定等を具体的に明示すること。
(三) 約定による月々の返済金額が、その者の所得や生活状況等を考慮して返済可能な範囲内にあると認められる金額であること。
(5) 利息相当額の経済的な利益に対する課税関係
(一) 贈与税が課税される場合
対価を支払わないであるいは著しく低い価額の対価で利益を受けた場合において、その利益を受けた時に、その利益を受けた者についてが、その利益の価額に相当する金額を、その利益を受けさせた者から贈与により取得したものとみなして贈与税を課税する旨が規定されています(相続税法9条)。この規定において、利益を受けたというのは、おおむね利益を受けた者の財産の増加あるいは債務の減少があった場合等をいい、労務の提供等を受けたような場合はこれに含まないものとされていると考えられます(相続税法基本通達9−1)。
(二) 贈与税が課税されない場合
その利益を受ける者が資力を喪失を原因として、債務を弁済することが困難である場合において、その者の扶養義務者から当該債務の弁済に充てるためになされたものであるときについては、その贈与により取得したものとみなされた利息金額のうち、その債務を弁済することが困難である部分の金額については課税されないことになっているようです(相続税法9条)。
また、貸付金額の多少、貸付期間の長短等から総合的に判断して借主の受ける利息相当額が少額であると認められる場合や租税回避の意図がない場合について、贈与税の課税を行わないとしても課税の公平が維持できると認められる場合について、等課税上弊害がないと認められる場合については、贈与税が課税されないものとされています。